ダンデライオン~春、キミに恋をする~


独り言のようにそう呟いたのと同時に、教室の入り口に響の姿が見えた。



今日も、寝癖なのかセットなのかわからないくらいような
そんなふわふわな髪を揺らして。


あたしを見つけた響が、アーモンドの瞳を細めて微笑んだ。
他の子に、こんなふうに笑わないのをあたしは知ってる。


嬉しくて、胸が、ジワリと熱くなる。




窓から吹き込んでくる風の中に雨の匂いがした。
ムッとした空気が体に纏わりつく。


7月の梅雨の晴れ間。


あたしは机に突っ伏して下敷きで、その熱気をなんとかしようとささやかな風を作った。


パタパタ、パタパタ……前髪が少しだけ持ち上がる。
むー、なんかもっと暑い。



午後の最後の授業。

ショウちゃんの心地よい低音が数学式を唱えてる。


ショウちゃんから、少しだけ視線を上げ。
その先には、こんなに蒸し暑いのに、なんとも涼しげな後ろ姿。


茶色の髪が、優しい風に乗って揺れてる。

授業、ちゃんと聞いてるのかな。


実は、響が授業中寝てる姿って見たことない。
お昼休みの時は、いつも箱庭で昼寝するのに。