その時、ショウちゃんが「ああ」となにか思い出したように頷いた。


「『悲愴』第2楽章。この前成田が音楽室で弾いてたな」

「……成田くんが?」


響の事を『成田くん』と言った泉先生。
キレイにメイクされた目を少し見開いて、「それほんと?」って言った。


泉先生は何かを考えるように、少しだけ沈黙。

フッと目を閉じて、それからゆっくりとあたしを見つめた。


ドキンって、胸が高鳴る。



「……音楽ってね? 作った人がどんな想いを込めたのか、それもとても大事だけど、それ以上にね? その曲を演奏する人が、どう曲を解釈するかが、とっても大事なの」

「……」

「悲愴と言う曲は、深い悲しみに打ちのめされている、そう言う意味なの」



深い悲しみ……。

でも……。
あの時の響の演奏は、すっごく優しくてあったかくて。

心の中がジンと熱くなる、そんな気がした。


悲しくて、哀しくて、そう思って弾いてるんじゃない。



俯いて、あの日の響を思い出していると、目の前の先生がクスッと笑ったのがわかった。

見上げると、なぜかショウちゃんを顔を見合わせて、ふふって笑った。







キョトンとしてるあたしに、泉先生は穏やかな声色で、静かに言ったんだ。