そして気が付けば
高2でいられる最後の週。
授業はすでに半日になっていて、春休みを目前に誰もが浮き足立っている。
クラスメイトが帰ってしまって誰もいなくなった教室。
笑いで溢れている何気ない毎日。
それが特別に思えてくる。
外から聞こえる他の生徒の笑い声が、まるで違う世界のように感じた。
ほんの少し開かれた窓からは
まだ肌寒い風の中に少しだけ春の香りが鼻をかすめた。
その風で白いカーテンがふわりと揺れる。
響に出会った季節が、また巡ってくる。
あたしはひとり、窓際の席に座って外を眺めていた。
「……」
……また。
また今日も話せなかったな。
見える桜の蕾は、もうぷっくりと膨れ上がっていて。
このまま暖かい日が続けば、一気に咲いてしまいそうだ。
時々教室の前を通る生徒たちが、楽しそうにこれからの予定を相談する声が聞こえた。
明日こそ、明日こそ。
逃げないで響と話をするんだ。
3年生になって、また新しい関係で繋がれるように。
『友達』だって構わない。
今度こそあたしの事、好きになってもらいたいもん。
鞄を掴んで、携帯を確認する。
沙耶からメールがきていた。
《今終わったよ!シィ今どこにいる?》
今日は沙耶とクレープを食べて帰る約束をしていた。
日直だった沙耶はショウちゃんの手伝いをしていたんだ。
《教室だよ。下駄箱で待ってるネ》
そう返信して、携帯をポケットに押し込むとあたしは誰もいない教室を後にした。



