見上げると、響がそこにいて、キャラメル色の前髪の間からあたしを見下ろしていた。

ドキーンって心臓が暴れだす。


「大丈夫?」


いつものようにかわらない、のんびりとした低音が鼓膜をくすぐる。


ひえええ!

ぶ、ぶつかった相手ってひ、響!!?


俯く視界の中に差し出されたのは、落っことしてへこんじゃった苺オレ。

あ!そうだ、コレだった……。
慌てて受け取ると、


「あ、ありがとう……」

「飲めるようになったの?」

「えっ」


突然そう言われ、ハッとして顔上げる。
パチンと目が合って、とたんにシュウウって体が熱くなる。


「おーい、成田ぁ行くべー」

「あー、うん」


廊下の先で、響を呼ぶ声に曖昧に返事をして、響はまたあたしに視線を落とす。
なにか言いたそうに小さく息を吸い込んだ響だったけど、「じゃあ」って背を向けて行ってしまった。


もっと、なんか話せばよかったよぉ……。
自己嫌悪……。


廊下に取り残された、あたし。
それからしばらく、放心状態でそこから動き出せなかった。