「彼が、私のことをとっても大切に思ってくれてる事、どこかでわかってた」

「……」


教卓の上の楽譜にそっと手を乗せ、そしてそれに視線を落とす。


「お兄さんと付き合ってたのに、それを言葉にして伝えなかったの。
知ってるって思ってたから。 ほんと、勝手な解釈よね?
ちゃんと言葉にしなきゃ、ダメなのに。言わなかった。
……うんん、言いたくなかったのかも」


泉先生の声は、心を落ち着かせる。
α派が入ってるのかな……。

まるで、波の音を聞いてるてるみたいな。


黙ってその言葉に耳を傾けていると、泉先生の瞳が、まっすぐにあたしを捕えた。


キレイな、澄んだ瞳。

曇りのない、透明な視線に、あたしは息をのんだ。



「彼の気持ちも、自分の気持ちも曖昧にしてたせいで、あのふたりに距離が出来てしまったのだって、時間が解決してくれるって思っててね? 
ほんと私は弱くてずるい人間なの」

「……」




頷くことも出来ず、あたしは先生の手元をジッと見つめていた。