「何があったかとか、んな事聞かねえけど……」
え?
空になった缶コーヒーを手持無沙汰にユラユラ揺らしながら、大野健吾はまるで呟くように言う。
「感情むき出しにして、泣き喚くくらい重大な事が起きたわけで」
泣き喚く……。
訳が分からずにキョトンとするあたしに、大野健吾はガバッと立ち上がった。
「だーかーらっ! たまには自分の気持ちを押し付けてもいいと、俺は思うわけ」
いきなり前に立ちはだかったもんだから、驚いてビクッと身を引いた。
大野健吾が何を言いたいか……。
わかるような……わからないような。
でも……。
「でも、あたしはそうは思わない。 自分の気持ち押し付けるって、相手にとっては窮屈でしかないもん」
ギュッと缶コーヒーを握りしめる。
それはもうとっくにぬるくなってしまって。
手袋をした手には、なにも伝わってこない。
頭上からため息がして、大野健吾はあたしに視線を合わせるようにしゃがみ込んだ。



