ダンデライオン~春、キミに恋をする~



イルミネーションから視線をずらすと、少し離れた場所に座る大野健吾が目に入った。
カシュッとプルトップを持ち上げて、ゴクリとコーヒーを流し込む。


なんでアイツこんなとこにいたんだろ……。

まさかクリスマスイヴにナンパ?
ありえない~……



「……バイトだっつの」

「え?」



まるであたしの声が聞こえてたみたいに、大野健吾は心底ウザったそうに顔を歪めた。


「大野健吾ってメンタリスト?」

「はあ? 今声に出して言ったの椎菜。アホか」

「……」


仮にセンパイだよね、あたし。

ムッとしたあたしを見て、大野健吾はもっとムッとした。


「だいたいさぁー。なんで俺の事、フルネームで呼ぶの?」

「え?なんでって」


大野健吾は、大野健吾。

大野くんでもないし、健吾くんでもない。


大野健吾じゃん。


首を捻ったあたしに、「別に呼び方なんてどーでもいいけどぉ」って言って大野健吾はまたコーヒーを飲む。


『別に』と言う割には、ものすごく不満そう。


……なによ。






「あのさ」