「はあ? まさか、俺のこと忘れたの!? マジ薄情だなー」
ガバって感じでベッドから飛び起きた彼は、さも不愉快そうに顔をしかめた。
え、知り合い?
だれ? 誰だ?
身を乗り出した彼を観察する。
ムムム……。
どう見ても、具合が悪い感じじゃなさそうな彼。日に焼けた肌、それはいたって健康そのもの。そこから覗く真っ白くて綺麗な歯。
真っ黒な短髪は、ワックスでしっかりセットされてて。
綺麗な…………髪?
……ん?
「ああああ! あの時の!」
そうだ。
そうだった!
彼はあの時の人だッ。
あたしが、いつかホースの水をかけちゃった人だあ……。
名前は……えーっと、名前はなんて言ったっけ?
オオタ、オオギ……違うな。
オオヤ……オオノ……あ。
そうだ、大野くんだ。
大野健吾……。
こんなことで会うなんて……。
しかも響がいるとこ見られちゃうし。
「おーい、ってアンタまぁーた人の話聞いてないな? その百面相もマジ笑えるからー。 そんなポヤーっとしてっから俺の事も忘れんだよ。 もっとセンパイらしくシャキッとしたら? シャキッとさぁ」
呆れたように目を細めた『オオノケンゴ』はまるで勝ち誇ったような笑みを浮かべながら、その手をヒラヒラさせた。
ムカッ
「……なによ」
バシッ!
思い切り布団を叩くと、あたしは響からもらったアイスノンを片手にベッドを降りた。
「別にねッ、あたしがアンタのことなんて覚えなくたってなにも困んないっつーの!」
そうだよ。
別に困んないもん。
もうさっさと帰ろう。
なんであろうことか、コイツがここにいるのよ。
なんだか泣きそうになりながら、あたしは慌てて靴をはいた。



