ダンデライオン~春、キミに恋をする~


「……ひびき?」


……うそ。



「え? ああ……ご、ごめん」



我に返ったように、その手を引っ込めた響は、まるで顔を隠すようにくしゃりと前髪をいじった。



「あ、俺……行くから。ほんと、ちゃんと寝てて」


「…………うん」



背を向けた響は、カーテンを開けるとそのまま振り返らずに出てってしまった。

シンと静まり返る保健室。


コチコチと時計の音がやけに響いて、胸を焦がす。


痛くて、ギュッとなって。

あたしは体操服の上から、自分の胸を抑えた。




「……まいったぁー」


呟いて、ベッドに倒れこむ。

まだタンコブは痛いけど。
そんなのはもうどってことなくて。



だって…………。

さっきの響のほうが、あたしを痛くさせた。




頬を染めた響。
揺れていた、その瞳。


なんで?

なんで……そんな顔してたの?

あんな響、初めて見た……



瞼に焼き付いて離れない。
あたしはそっと自分の顔に腕を乗せた。


「もしかして」「まさか」なんて、自分に都合のいいことばっか浮かんでくる。


あ~あ。
自意識過剰もいいとこだ。



バカバカ!

ってゆかさ、わざとやってんのは響の方でしょー!


トクン トクン



「……」





ダメだ……。
嬉しい……。

響の場合無意識なんだろうな……。

あたしのこと、かわいいって言えちゃうんだから。



「あああ、もう! 罪作りーっ」



枕に顔を埋めて、そう叫んだ瞬間だった。




「へ~え、もしかしてアレがあんたの彼氏?」



――誰もいない。
そう思ってた保健室。

隣のベッドから、からかうような声と視線が、あたしに向けられていた。