ダンデライオン~春、キミに恋をする~


カーテンを開けて去っていく響の背中を見送りながら、何も言えないあたし。



「……~~ッ」



ジンジン痛む後頭部よりも、なんだか心臓がイタイ。

シーツを掴む手に、ギュッと力がこもる。



実を言うと。
あの未遂事件から、なーんにも変わらないのは響だけで。

あたしは物凄く意識してたりして。



だから。

目を合わせるのも。
こうして話すことも緊張しまくりなんだ。

こんなんじゃ……愛想尽かされちゃうよお。
思わず涙目になりながら、あたしはキュッと唇を噛んだ。


カーテンの向こう側で、なにやら気配がする。
他に物音がしないから、きっとこの保健室にはあたしと響の2人きり。




ドクン

ドクン





「……あ、あの。 響?」



声をかけたのと同時。


――シャッ


響が何かをもって、姿を現した。



「ほら、これで冷やして」

「……あ、ありがとう」



そう言って渡されたのはアイスノン。
ちゃんとタオルも巻いてある。



「え、と……響……ずっといてくれてたの?」

「んー……まあ。 センセイは今日は午後はいないんだって。 クラスのヤツは片づけがあるとかですぐに戻っちゃったし」

「そうなんだ」



響はそう言うと、座っていた丸イスを隅に片付けるとあたしと向き合った。


ドキン……




「……んじゃ、俺も行くから。椎菜はもうちょっと寝てて」

「え、行っちゃうの?」

「え?」




思わず口から零れた言葉に、頬がカアアと熱を持つ。


一瞬だけ瞬きを繰り返した響は、フッとその表情を崩すと、ポケットに突っ込んでいた手を出してそっとあたしの髪に触れた。




え……。

え……?