さっきまで雨を降らせていた雲は、どこかに去って。
かわりに満天の星空があたし達を見下ろしていた。
水たまりを弾く靴音がふたつ。
誰もいなくなった路地にこだまする。
もっと一緒にいたくて、響の気持ちが聞きたくて。
だけど、無情にもバス停までの道のりはあっという間に終わってしまった。
響は時刻表と携帯を見て「もう来るね」と言ってバスが来るはずの道の先を眺めた。
「寒くない?」
「うん、平気。 あ、あの……ありがとう。 送ってくれて」
「いいよ、そんなの。 ……にしても、俺のTシャツでっかすぎ」
浴衣の入った紙袋と巾着をあたしに手渡しながら、響はふわりと笑った。
その笑顔がすごく優しくて。
あたしは何も言えずに俯いた。
さっきのキスする寸前の、響の顔がリンクしてしまって。
まともに見ていられないんだ。
「椎菜って、ほんとチビ」
小首を傾げながらそう言って、ポンポンって髪に触れた。
ああ、なんでそーゆう事するかな?
「……響の服がでっかいんだよ、あた、あたし、普通だと思う」
無力の反抗をしてみても。
「はいはい」って笑う響には、勝てる気がしない。
真っ赤になった頬が冷めないまま、バスが唸りをあげてあたし達の前に停まった。
プシューって音を立ててドアが開く。
「……」
だけど、あたしはなぜかそこから動けなくて。
バスの運転手に、「乗りますか?」って声をかけられるまで自分の手元をジッと凝視してた。



