ソファに深く腰を落とした響。
意味もなく前髪をいじっている響もチラリとあたしに視線を合わせた。
――ドクンっ
その手でほとんど顔は見えなかったけど。
一瞬見えた耳が、ほんの少しだけ赤く染まってた。
そんな気がしたのは、あたしの願望だろうか?
『ちょっと、椎菜! 聞いてるの?』
「……え? き、聞いてる聞いてるっ、大丈夫。もうすぐ帰るから。うん、うん。 じゃあね」
ほぼ無理矢理電話を切ると、あたしを「はあー」と深く息をついた。
ほんと、お母さん見てたんじゃないかってくらいタイミングよすぎるよ。
「雨もや止んだし。帰ろっか。送ってくよ」
「……あ、うん」
あたしを抱きしめた響はどこにもいなくて。
いつも通りの笑顔を浮かべた響が、あたしの巾着を手にして言った。
ねえ、響……
あと少しでも電話がかかってくるのが遅かったら。
あたし達は、変わってたのかな?



