ダンデライオン~春、キミに恋をする~


あたしが何も言えず、ただ見上げていると不意に響はあたしに視線を移した。


「……けど、留守電に50件とかありえないよな? いくら兄貴でも過保護すぎ」

「……へへ」


同意を求めるように、肩をすくめながら首を傾げた響。
あたしは同じように笑い返すことしか出来なくて。


きっと、これって今日1日の件数じゃない。
響は、お兄さんと連絡とってないのかな?


聞きたいことは、もっとあったけど。
なんとなく聞いちゃいけない気がして。


それで『彼女じゃない』ってことを痛感させられた気がした。



「……とにかく、早く着替えといで。 風邪引いたりしたら椎菜のお母さんに怒られるよ。 なんならシャワーも浴びる?」

「あ、うん……って、いっ、いいよ!平気っ」



ハッとして慌てて両手を突き出して顔を横に振る。

見上げると、響は悪戯な笑みを零して「そう?」って笑った。



……うわ!なにそれ!
絶対、からかわれた!



「こ、これっ、お借りします!」



ポケットに突っ込んでいた右手を出すと「どーぞ」って言った響。


口の端をキュッと持ち上げて、ちょっとだけ挑発的な響に追われるようにあたしは真っ赤な顔をTシャツで覆いながら、教えられたバスルームへ逃げ込んだ。



「……はあ……はあ……」


大きな洗面台の前に立つと、あたしはTシャツに埋めていた顔を上げた。
そこには、案の定リンゴ飴みたいに真っ赤になったあたしがいて。

濡れた髪や浴衣が、走ったことでボロボロで。


「……さいあく……」


こんな姿を響に見せてたのか……。
そう思うと、なんだかどこか見えないとこへ消えちゃい。

今のところ人生で1番へこんだあたしは、少しでも綺麗になりたくて。

泣く泣く。
お風呂を借りることにした。