「椎菜?」
「……は、はいぃ!」
突然リビングのドアが開いて、響が顔を覗かせた。
驚いて思わずビクンって肩を揺らしたあたし。
タタ、タイミング悪いすぎ。
思わず涙目になりながら、苦笑いを零す。
「なんか見つけた?」
響は固まってるあたしを面白そうに眺めて少し悪戯な笑顔を見せた。
そして、ドアを閉めてあたしの方へとやってくる。
「あ、あの……勝手に歩き回って……ごめん」
茶色の髪に良く生える真っ黒なTシャツに、カラフルなハーフ丈のパンツ姿の響。
ドクンって胸が高鳴って、そんな響から視線をそらした。
「別にいいよ。 面白いものなんかないと思うけど。 はい。これに着替えなよ」
「あ……うん、ありがとう」
手渡されたのは、淡い黄色のTシャツとスウェット。
それを受け取りながら、なんとなく気まずくて俯いた。
「……」
――……だって。
響はそれだけ言うと、ポケットに手を突っ込んで壁に肩をつくと、ジッとあたしを眺めていたから。
まだ濡れてる前髪の隙間から、真っ直ぐに見つめられたあたしは、身動きが取れなくなってしまった。
ドクン
ドクン
電話、見てたの……怒ってるのかな?
そりゃ、そうだよね?
響は『別にいい』なんて言ってくれたけど、勝手に自分の家をウロウロされるなんて……。
嫌に決まってるもん。
チラリと見上げると、響はあたしなんか見てなかった。
「……」
なんだかその事にホッとしたのか、残念なのかよくわからない感情に襲われながらあたしは響の視線の先を追う。
「……兄貴だよ」
「え?」
まるで雫が零れるように、静かに響は口を開いた。
響の視線の先には、点滅する電話で。
『兄貴』と言ったその表情に、まるで感情がなくて。
冷めていて、驚いた。



