……帰ろう。

なんだか無性に悲しくて。
唇を噛み締めたその時――……




――……パシャ

水を弾くような音に、空から視線を落としたあたしは、息を呑んだ。


……うそ





「……響……」

「なにしてんの。 こんなことで」



滴り落ちる水滴を手の甲で拭いながら、響は眉間にグッとシワを寄せた。

そう言った声が低くて、ビクリと体が震える。



「探した。急にいなくなるなよ」

「……ご……め」



震える唇でなんとか声にする。
だけどその声も消えちゃいそうなほど弱くて。

自分でも驚いた。



「…………」



響はそんなあたしを見て、複雑そうに顔をしかめるとクシャリと髪をすいた。



「って、あー……と、ごめん。 そうゆう事が言いたかったんじゃなくて……」

「え……」




響は濡れた髪をすきながらあたしの前までやってくると、気まずそうに視線を落とした。



「俺が一緒にいたのに……不安にさせてごめん」

「……」

「変なヤツに連れてかれてたら、ほんと……どうしようかと思った」



響はそう言うと、眉を下げた。


もうしっかりと響の顔を見ることが出来ない。
涙と雨で滲んだ世界。

今何かを口にしたら、あたしの心の中のいろんな感情が出てきてしまいそうだった。


びしょ濡れの髪や服が、愛おしくて。
高いことにいるあたしと同じ目線の響が愛おしくて。

その体を思い切り抱きしめたくなったんだ。