「んんっ、気持ちいい‥‥」


街はガヤガヤと騒がしい。

OLやサラリーマンらしき人々が、慌しく目の前を通り過ぎていく。

青空にある太陽は微妙に斜めに傾いている。

朝とも昼とも言えない微妙な時間。

水色のスニーカーで地面をとんとん、と叩く。

元気ですか、と訊くかのように優しく叩く。

車がビュンビュンと行き交うそのとなり。

歩道の左側にある開店したばかりらしいブティック。

ガラスの向こうにおいてあるのは、ひらひらした布が大量に縫い付けられている真っ白なドレス。

私はそのガラスに寄りかかっている。

長い黒髪を手で後ろへ追いやる。

まるで私は、観光客のような風貌をしていた。

目元まである前髪を右手でかき上げながら、薄い茶色をした瞳で遠くを見つめる。

真正面に、小さく聳え立っている物。

324メートルもある、細長い三角形の形をした塔。

下の方は四つに分かれていて、その巨体を支えている。

確か、名前は――


「エッフェル塔‥‥だっけ?」


ココは芸術の都、パリ。

世界で最も美しい都市。

そして、私が世界で最もはじめに訪れた都市――