一睡もしてないのに
なぜか眠気は無く
京子さんが用意してくれた朝食を食べると
私と聖斗は名古屋を後にした。


聖斗の車の助手席に乗り
眩しい朝日に目を細めていると
突然、車が高速のインターを下りる。


まだ先のはずなのに…


不思議に思い
聖斗の顔に視線を移すと
「ちょっと、寄りたいとこがある」
と、ハンドルを切り
タバコを銜えた。


「どこ行くの?」

「行けば分かるさ…」


勿体ぶった言い方をして
運転席の窓に向かって一筋の煙を吐き出すと
優しく微笑む聖斗


一体、どこ行くんだろう…


20分ほど走って到着した場所は
忘れられない
あの場所だった…


「ここは…」

「懐かしいだろ?」

「う…ん。でも、どうして?」


そう、ここは
私たちの思い出の海
幼い私たち2人が
"約束"を交わした場所


「ほら、行くぞ」


聖斗が私の手を引き
誰も居ない波打ち際へと向かう。


まだ春には遠くて
吹き付ける潮風は肌寒く
身をかがめながら歩く


そんな私の体を抱き寄せ
包み込む様に温めてくれる
愛しい人


「ここだよな…」


目の前にそそり立つ岩山
今は引き潮なのか
あの日と同様、湿った磯が広がってる。


ここに来たのは14年ぶりだ…


ゴツゴツした岩磯を歩き
岩山をグルリと回り込むと
断崖絶壁の岩肌に
見覚えのある窪みを見つけた。


「あ…、ここだよね…
私と聖斗が満ち潮避けるのに
必死でよじ登ったとこ」

「そうだな…」


聖斗はそう言うと
その窪みに手を掛け、ヒョイと飛びあがり
腰を下ろす。


「でも、これ
こんなに低い場所にあっんだね。
あの時は、見上げるほど高かったのに…」

「ハハハ…
そうだな、美羅はまだガキだったし
チビ美羅だったもんな!」