雅史さんが
「聖斗に話す?」
と、不安げな表情で聞いてくる。
「今は…まだ」
あんなに嬉しそうにしてる聖斗に
今、あの事実を話すのは、酷だ。
「美羅ちゃんが言えないなら
俺が話してもいいからね」
そう言って、雅史さんは病室の方へと
向きを変えた。
「聖斗…」
振り返った聖斗は私を見て
少し戸惑った様子だったが
直ぐに、ニッコリ笑い
穏やかな口調で話し出す。
「智可と会ってたんだろ?」
「うん」
「アイツ、俺のこと
なんか言ってたか?」
「私の知らなかったこと
全部聞いた。
一杯、心配してくれたんだね…聖斗」
「やっぱり聞いたのか…
お喋りだな、智可は…」
そう言って
苦笑いする聖斗に
「どうして何も言ってくれなかったの?」と尋ねると
「言うほどのことじゃねぇよ」と
寂しげに呟く。
「でも話して欲しかった。
話してくれてたら
何か違ってたかもしれないのに…」
「何か…か…
そうかもしれねぇな…
でもな、俺が理絵を妊娠させたことは
変えられねぇし
確実に子供は生まれてくる。
例え、美羅と一緒に居れたとしても
お前は、この子のことを色んな意味で意識して
生きてくことになる。
俺には、美羅を母親にしてやることは
出来ねぇんだからな」
あ…
この時、意地を張って
聖斗に事実を告げなかった自分が
知らず知らずの内に
私と聖斗を遠ざけていったんだと
痛感させられたんだ…
聖斗の視線が
ガラス越しに見える
赤ちゃんの方へと向けられた。
小さなベットに並んだ
生まれたての命
『大原bady』の名札の付いた
赤ちゃんが、気持ち良さそうに
スヤスヤ眠ってる。
この子が、聖斗の子供…
「俺な、この子を見て思ったんだよ。
俺と同じだな…って
望まれてデキた子じゃねぇ
父親の俺にさえ
初めは、うとまれる存在で
生まれてこれるかも分からない状態だった。
理絵が絶対産むって言いきった時
一瞬、薫叔母さんの顔が浮かんだ」
「ママの顔?」
「あぁ、薫叔母さんも
俺が出来たって知った時
こんなんだったのかな…ってな」


