私たちを見下ろしていたのは
理絵さんだった。


「理絵…」

「聖ちゃん、こんなとこで何してんの?」

「…別に何も…
ちょっと話してただけだ」

「そう…」


理絵さんは
いつから、そこに居たんだろう…
私たちの会話
聞かれた?


「理絵、イトコの美羅だ」

「えぇ、知ってる」


大きなお腹を
これ見よがしに撫でながら
蔑む様に私を見据える。


「知り合いだったのか?」

「高校の時に、ちょっとね…
ねっ!美羅ちゃん?」


なんとも言えない
勝ち誇った様な
理絵さんの笑顔にゾクッとした。


「あ、うん…」

「もう~!聖ちゃんたらぁ~
お義母さん待ってるわよ。
早く来て」

「あぁ…」


気だるそうに階段を上がって行く聖斗。


理絵さんが差し出した手を
躊躇しながらも握る。


これが、勝者に与えられた特権…
誰に遠慮することなく
聖斗を独占出来るんだ…


2人が立ち去る寸前
振り向いた理絵さんの目が
私の胸を貫くほど鋭かったのは
気のせいなんかじゃない。


彼女は、きっと、気づいてる…


私と聖斗の関係を…


それを、あえて口にしなかったのは
優しさからではないはず。


"妻"という不動の座を手に入れた
余裕がなせる技?

全身に悪寒が走り、鳥肌が立つ。


理絵さんの性格からして
私と聖斗の距離が縮まれば
彼女は、黙っていないだろう…


理絵さんには
聖斗に近づく女を排除する権利がある。

妻としての…権利が…



負け犬の様に
背を丸め
階段を一段、また一段と下りる。


全てを失った
私の居場所は
どこにあるんだろう…