エレベーター横の階段を
少し駆け下りた所で
腕を掴まれた。


「待て!美羅」

「ヤダ!」

「なんでだよ…
今日は病院に来るなって言っただろ?」


両手を引っ張られ
壁に押し付けられる。


「だから…なの?」

「何が?」

「理絵さんを連れて来たかったから
私に来るなって言ったの?
だから…
前の日に、無理やり私を家に帰らせたの?」


朝と同じ
哀愁に満ちた瞳


「…そうだ」

「そんな気遣いなんて…いらない…
ハッキリ言えば良かったんだよ。

私が邪魔だって!
奥さんに私を会わせたくないから来るなって!」

「美羅…」

「入籍のことだって、そうだよ。
隠すこと無いじゃない。
こんな形で知りたくなかった…

知りたく…なかったよ…」


私の手を放し
顔をしかめながら聖斗は視線を落とす。


「もう、終わりだよ…
本当に、終わり。
聖斗は理絵さんの旦那さんになったんだよ。

どうすることも出来ない…
そうでしょ?」


聖斗に投げかけた
その、言葉は
自分に言い聞かせる言葉でもあったんだ。


「俺を、恨め…美羅。
それでお前の気が済むなら
どんなに恨まれても構わねぇ」


聖斗も苦しんでる。

分かってたけど
優しい言葉を掛けられるほど
私は大人じゃなくて…

感情のまま
挑発的な視線を聖斗に向けてしまう。


「そんな綺麗ごとなんて、聞きたくない。」

「美羅、俺は、どんなに恨まれても
美羅のことを忘れるつもりはない。
俺の中で美羅は特別なんだ。
何にも代えがたい一番の存在なんだよ」

「何言ってんの?
結婚したんでしょ?
理絵さんのモノになったんでしょ?
説得力ないよ…」


この時の私は
きっと、何を言われても
素直にはなれなかったと思う。


「また、出てくのか?
あの男のとこ…行くのか?」

「……」


その時
階段の上の方から声がした。


「…聖ちゃん」