カーテンを掴んだまま
自分の意思では動かすことの出来ない
固まった体。


「でも、お腹が大きくて大変なのに
わざわざ病院まで来てくれて
本当に、ありがとうね」

「いえ、そんな…
入籍したこと
一番にお義母さんに報告したかったんです」


入籍…?


「まぁ、理絵さんは優しいのね。
でも、日曜でも婚姻届受け付けてくれるなんて
知らなかったわ。

とにかく、これで理絵さんは
私の娘だから
仲良くやっていきましょうね」

「はい。
宜しくお願いします」


微笑ましい会話…


でも、私にとっては
残酷な会話…


立っていることさえ苦しい


「聖斗、理絵さんを大切にするのよ」

「…あぁ、分かってる」


カーテンの隙間から見える
聖斗の後ろ姿が
そっと、気遣う様に
理絵さんの腰に手を当てた。


絶望とは…
きっと、こんな時に使う言葉なんだろう…


聖斗が、理絵さんと…結婚した。


こっそり隠れて
夫婦になった2人を見つめてる自分が哀れで
やり場のない
想いが胸を締め付ける。


「それで、結婚式はどうするの?」

「あぁ、式は子供が産まれてからにする。
デカい腹でドレス着たくないて、理絵が…」

「そうだよ。
一生に一度の結婚式だもん
聖ちゃんも綺麗な花嫁の方がいいでしょ?」

「俺は、別に…」


これ以上、聞いていられない…


カーテンから手を放した時だった。
微かに揺れたカーテンに気付いた聖斗が
こちらを向いた。


目を見開き
立ち上がる聖斗。


「…どうして、ここに…」


咄嗟に私は、逃げるように走り出していた。


「聖ちゃん?どこ行くの?」


理絵さんの声が背後から聞こえる。


来ないで、聖斗…
追いかけて来ないで。
お願い…


来ないで…