「マスターに彼の名刺を見せてもらったんだ。
この人と一緒に帰りなさい」
「イヤ…」
「美羅、帰ろう」
「イヤ、イヤ…」
今ここを出たら
もう戻ってこれない様な気がした。
「美羅、約束の日より
少し早くなったけど
こっちの事情も変わったんだ…
頼む。帰ってくれ」
優斗の表情は険しく
何か嫌な予感がした。
2人に説得され
渋々帰ることを承諾したけど
私はまた、ここに戻るつもりだった。
だから荷物はそのまま
鞄だけを持ってアパートを出る。
「黒木さん
お別れじゃないよ。
暫くしたら、また戻って来るからね」
私の言葉に
黒木さんは寂しそうに笑うだけだった。
優斗と車に乗っても
名残惜しくて
何度も後ろを振り向いてしまう。
「あの人のこと、好きなのか?」
「…うん」
「あの人と美羅は
なんの関係も無かったそうじゃないか…」
「えっ?」
不機嫌そうに、私を睨む優斗
「聞いたよ。
男と女の関係じゃなかったって
ただの同居だったそうじゃないか。
まぁ、いいことだけどな…」
「優斗…」
「そんな嘘までついて
帰りたくない理由って、なんなんだよ?」
いつもの優斗じゃない。
凄くイライラしてるみたい。
あれ…?
どうして右に曲がるの?
家は左方向なのに…
「どこ…行くの?」
「病院だ…」
「病院?どうして?」
「母さんが、昨夜倒れて入院したんだ…
美羅に会いたがってる。
顔見せて安心させてやってくれ」
「うそ…」
「昨日、聖斗の結納だったんだよ。
それが終わって、すぐ倒れた…」
聖斗の…結納…


