贅沢を嫌い
質素な生活をしながら
黒木さんは必死で、貯金してきたんだ…
私の為に…
残された私の為に…
「ダメだよ!!受け取れない!!」
「どうして?」
「こんな…大金…
黒木さんが一生懸命働いて
貯めた大切なお金じゃない。
とても受け取れない…」
「だからだよ。
だから、受け取ってもらいたいんだ…
君のことを思いながら
必死で働いてきた。
これを受け取ってもらえる日を夢見て
それが僕の心の支えだった。
生きる、支えだったんだよ…」
必死に
私の手に通帳を握らせている彼の手は
震えていた。
時折、温かい雫が
私の手の上で弾け
黒木さんの思いが
涙と一緒に私の手に沁み込んでくるみたいだった。
私は、どうすればいいんだろう…
「これを私が受け取ったら
黒木さんは救われるの?」
「もちろん、こんなことで許されるなんて思ってない。
でも、少しだけ償いが出来たって思える…」
その時、フッと頭の中に
ある思いが過った…
「私と黒木さんが出会ったのは
偶然なんかじゃなかったのかもね。
きっと、パパが会わせてくれたんだよ…」
「お父さんが?」
「そう、私のパパは
人を恨むことを知らない人だった。
いつも優しくて
他人の悪口は絶対に言わなかった…
憎しみからは何も生まれない。
愛する心と、感謝の気持ちを忘れちゃいけない…
それが口癖だった。
パパは、クリスチャンだったの
もし、突然
黒木さんが私の目の前に現れて
両親を奪った人だと言われたら
私は間違いなく
黒木さんを恨んでた。
でも、こうやって
本当の黒木さんの姿を知った上で
事実を聞かされて
私は黒木さんを恨まずに済んだ。
パパの教えを守れたんだよ」
「美羅さん…」
「黒木さんが望むなら
このお金は受け取る。
でも、使わないよ。
ずっと、持ってる。
私のお守りにするから…」


