「どうして聖斗は
ママを見ても泣かなかったんだろうね?」


不思議がる私に京子さんは
うどんを食べる手を止め
「聖斗は、分かってたのかもしれないね…」
と、言った。


「何を分かってたの?」

「この人は
将来、自分の一番大切な人を産んでくれる人…だって」


京子さん…


「その翌年、美羅
あんたが産まれたんだよ」

「私が…」

「そう…
美羅が産まれると
あの、甘えん坊だった聖斗が大変身してね
しっかり者になっちゃって

危なっかしくチョロチョロ歩くあんたの後ろを
いつも心配そうに追いかけてた。

美羅だって、聖斗を特別な存在だって思ってたはずだよ」

「う~ん、よく覚えてないな…」

「だってね
美羅が初めて喋った言葉は
ママでも、パパでもなく
"せーと"だったんだよ。

聖斗は、美羅が産まれてくることを望み
美羅は、聖斗に会う為に産まれてきた…
今思うと
そんな気がするよ」


京子さんの言葉が
胸に響いた…
聖斗はそんな昔から
私を見てくれてたんだ…


やっぱり、ここに来て良かった。

味噌煮込みを食べ終えた私の心も体も
ポカポカと暖かくて
幸せなひと時だった。



そして私は
ここに来たことは誰にも言わないでと
京子さんに念を押し
呼んでもらったタクシーに乗り
駅へと急ぐ…


今更、過去の話しを蒸し返して
伯母さんたちを悲しませたくはない。
聖斗にだけ
真実を話せば、それでいい。


電車が来るまで
少し時間があったので
今から帰ることを伝えようと
聖斗の携帯に掛けてみたが
まだ繋がらない。


おかしいな…
一体、どうしちゃったんだろう…


ふと、嫌な予感がした…


もしかして理絵さんと…


うぅん。
そんなはずないよね。
別れる人と一晩中一緒に居るワケないよね…


そうだよ。
そんなのあり得ない。


でも、小さな疑問は
徐々に大きくなっていく。