沈黙が続いた…


何も言えないし
何も聞けない…


でも、私の中で
ただの意地悪なイトコの聖斗が
特別な存在になっていったのは
きっと、この瞬間から…


波の音を聞きながら
私の心は揺れ動いていたんだ…


「いいか、美羅。
ここに来たのは、俺が誘ったからだって言えよ。
無理やり連れて来られたって…
いいな!!」

「ダメだよ。
そんなこと言ったら
聖斗が叱られる」

「…いいんだ」

「良くない!!」

「聞き分けないこと言うな!!
いいから、そう言え」


聖斗って…
ホントは、優しいんだ…
何年も一緒に暮らしてきたのに
気付かなかった…


違う…
私は、気付こうとしなかった。
聖斗の言う通り
聖斗のこと、見てなかったんだ。


こんなに近くに居たのに…


「ごめんね、聖斗」

「謝るな」

「じゃあ、有難う…」

「うん」


私は、聖斗の血に染まった震える手を
そっと握った。


暖かい…
ママの時とは違う。
聖斗は、どこにも行かない
きっと私の側に居てくれる。


根拠の無い確信だったけど
確かにこの時
私はそう思った。


それから数分後のことだった…


岩山の向こう側の海から
微かなエンジン音が聞こえたと思ったら
一隻の船が旋回して
強烈なライトで辺りを照らし始めた。


拡声器から聞こえるのは
私たちの名を呼ぶ
伯父さんの声


「聖斗、伯父さんが来てくれたよ!!」


寒さも忘れ
必死に手をふり、叫ぶ。


やがて、ライトが私たちの姿を捉え
私と聖斗は助けられた。


浜に上がると
そのまま近くの旅館に連れられ
ロビーで待つ
伯母さんや、優斗たちと対面した。


すると突然
今まで見たことも無い怖い顔をした優斗が
聖斗を凝視したまま
近づいてくる…