「また、離れちゃう…」
肩を落とし
うな垂れる私に聖斗は
とんでもないことを言ってきた。
「その会社、断れ」
「えっ?」
「美羅の就職先は
俺が決めてやったから
そっちは断れ」
ポカンと呆気にとられてる私に聖斗は…
「4月からウチの薬局に来い」
そう言った。
「受付してる女の子が
4月末で辞めるんだ。
親父にもOK貰ってる」
「うそ…」
「嘘なんかつくかよ。
一ヶ月間、しっかり引き継ぎして
皆の迷惑にならない様にしろよ」
「…あぁぁ…」
それって、家でも職場でも
聖斗の近くに居れるってことだよね?
「美羅が、どうしても嫌だって言うなら
仕方ねぇけど…
どうする?」
「イヤな訳…グスッ…ないじゃない…グスッ」
私の顔はもう、涙でグチャグチャ…
「ひでぇ顔!
よく、そんな泣けるな…
チビ美羅」
懐かしい、その呼び名に
また涙が溢れる。
「チビじゃないよ…
もう、大人だよ…」
すると聖斗は
指輪をした私の指を優しく撫で
低く、よく通る声で囁く。
「そうだな…
すっかり大人の女になっちまったよな…
俺を夢中にさせるくらい
いい女に…
だから、四六時中
俺の側に置いておきたい。
離れたくねぇんだよ」
切なく揺れる
聖斗の眼差し
たとえ、あなたがお兄さんでも…
もう聖斗しか愛せないよ…
誰にも渡したくないよ…
「私も、聖斗と離れたくない…
私だけの聖斗になって欲しい…
他の女(ひと)に触れて欲しくない」
私が言った言葉の意味を
聖斗は瞬時に理解した様で
「それって、理絵の…ことか?」
と、顔を曇らせた。
「…うん。
別れてくれるよね…聖斗…」


