「…聖…斗、それ…」

「…たいしたことない」


聖斗の左手から血が…
幼かった頃の記憶が蘇ってくる。

ママの赤く染まった手…


「いゃあぁぁーー」


突然、襲ってきた恐怖…

泣き叫び、崖から落ちそうになった私を
覆いかぶさる様に
聖斗が抱きとめた。


「泣くな…
大丈夫だって…
ちょっと、切っただけだ…」

「聖斗ぉー…
私たち…死んじゃうの?」

「バカ!こんなことで死ぬかよ。
美羅一人ぐらい
俺が守ってやるから…」


聖斗の胸は
思ったより大きくて
暖かかった…


次第に落ち着いてくると
今度は、強烈な寒さに震えが止まらない。


水着の上に
薄いサマージャケットを羽織っただけの私たち
夏とはいえ
濡れた体に吹き付ける夜風は
徐々に体温を奪っていく…


より強く抱き合う
私と聖斗


「…優斗、怒ってるかな?」


ボソッと言った私の言葉に
聖斗は異常に反応した。


「なんで…なんで、お前はいつも
兄貴なんだよ!!
昔からそうだ。
兄貴のことばっか見て
俺のことなんて
全然、見ない…」

「聖斗…」

「俺は…美羅のこと
ずっと見てたのに…」


うそ…


寒さを忘れるくらい
ショックだった…


聖斗が、私を見てた…?
ずっと、見てた…?


「兄貴は、あの由香って人が好きなんだよ!
美羅は…俺が側に居てやるから…
大人になっも
ずっと、側に居てやるから…

兄貴の嫁さんになりたいなんて…
もう、言うな…」