そして俺らは走り出す

「紘嵩君っ、まだ砂ついてる?」


そんな泣きそうな声で言われると

「あー…ついてないよ」


としか言えなくなってしまった。


もし今のが嘘だと分かったら、どんな反応をするのだろう。


……少しだけ気になった。


ていうか、初めから砂なんてついてなかったのだけれど。



「よかったぁ」


一安心したのか、ふわっと笑う桜音。




ちょ…今のは反則だろ。

不意打ちだ、こんなの。


俺は多分真っ赤になったであろう顔を隠すため、桜音から顔を逸らす。



「あ、梨沙ちゃーん!」

桜音がそんな俺の様子に気付かなかったのは、どうやら梨沙が来たからのようで。

今は待ち合わせの1分前。


割としっかりした性格のようだ。


――となると後は健だけなんだけど……。




あいつが時間通り来ることは、もうないだろう。


例え今が待ち合わせの1分前じゃなかったとしても…だ。


あいつが待ち合わせにちゃんと来たことは、今まで一度もない。

部活の時間には遅れないくせに、こういう私生活にはとてもルーズ。

酷いときは30分近く待たされた。


そんな健だからその日以来、約束は絶対に間に合う30分前に取り付けていたんだが…


今回は皆に言ったのでそんなことは出来ない。

もし健にだけ嘘の時間を教えたとしても勘のいいあいつのこと、すぐに看破してその30分後以降に来るだろう。