「敬語」


「…え?」


一瞬桜音はポカンとする。

確かに“敬語”とだけ言われても困るだろう。

だから俺は、続けて気になったことを言う。


「タメなんだから、敬語は無しで。

おーけー?」


俺のその言葉に、桜音は面食らったようで
一瞬にして顔面を真っ赤にしている。


「……お、おーけいー……。」


もうそれだけでいっぱいいっぱいであろう桜音に
俺は追加して意地悪をする。


「あと名前」

「へ?」



「俺のなーまーえっ!」

名前を強調して言う。


「た、田中君
意味が…っ」


桜音は予想通り、わたわたしている。


「ほら!

その田中君ての、止めてよ?」

俺がにっこり笑顔で言うと、桜音はきょとんとした表情から
みるみる困ったような顔になる。


「でも、じゃあ何て……」
「下の名前呼び捨てで」

間髪入れずに言うと、桜音の顔面がまたもや赤くなる。


「で、でもっ田中く」
「下の名前呼び捨て」


頑なとして俺は聞かない。


「…もしかして俺の下の名前、知らない?」

桜音の顔を覗き込むようにして、問いかける。


「し、知ってる…けどっ!」

「そう。
じゃあ呼んで?」


知らないとか言われなくて良かった。

自分から聞いたものの、もし知らなかったら少なからず、ショックを受けてただろう。


「呼んで」


もう一度言う。


「呼んで」


「~~~っ」


「呼んで」


頑なとして聞かない俺に、
桜音は覚悟を決めたように俺の目を見つめてくる。



「ひ……」

「ひ?」


「ひ、ひひ…」


ヤバい。

こんだけでどもってるコイツがめちゃくちゃ可愛い。