その倉には、色々なものがある。
先祖ゆかりの物だったり、使わなくなった家電だったり。
全てが白い埃にまみれ、ひっそりと佇んでいる。
…絵皿の入った箱は、その手前だ。
早織はそれを取り出しながら、改めて倉の中を見渡した。
「本当に色々あるわね。」
…奥の方に見える長い桐箱は、ご先祖が愛用していた釣竿だという。
何でも悪い亀を、それで釣り上げたとか、しなかったとか。
…その横には、曾祖母さんが使っていた日傘も見える。
とても大切にしていた白い日傘で、亡くなるまで愛用していたという。
大正時代という暗い時代を、健気に生き抜いた女性だった。
「あれ、これは?。」
更に彼女は微笑みながら、その手前のあったものを掴んだ。
『姫様と船幽霊』
…昔、お爺さんと海に行ったときに買ってもらった絵本だった。
話の内容は覚えていないが、絵の可愛さだけでそれを選んだ覚えがある。
いま見れば、そこに描かれたウミヘビの顔は、どことなく営業の先輩社員に似ている。
「元気にしてるかな、みんな。」
スーツを着て、電車に揺られた日々を思い出しながら、
彼女はしばしの間、時を忘れてそれらに見入っていた。

