その日の夜に電話があった。
時刻は夜中の二時すぎだ。
ラモーンズにまじって電子の単音。
着メロではなく、目覚まし時計みたいな音。
おれはコンポのヴォリュームをぐっとしぼった。

「どうした」

ユミの声はなかなかきこえてこなかった。
鼻をすする音と、荒い息だけが送話口からやけに鮮明に流れてくる。

「こんな時間になにかあったの」

通話の相手は息を吸っておおきく吐く。

途切れとぎれにしゃべりだす。

「遅くにごめんね。借りたCDきいて歌詞読んでたら、なんだか泣けてきちゃった」

それはよかったといおうとしてやめた。

地雷原をおおまたで歩けるほど、おれは度胸のある男じゃない。