だいじの近くにある名前

「彼氏とわかれちゃったんだ」

見るからに涙をこらえていうユミには、どこかこれ以上ふみこませない雰囲気があった。
おれが黙ったままでいると、ユミはソファーを立ちあがった。

「とりあえず、今日はこれ借りてくね。家に帰ってきいてみる」

わかったというと、ユミはジャージのパンツを脱いだ。
きれいにたたんで手わたしてくれる。

駅まで送ろうかというと、ていねいに断られた。
帰りがけにケータイ番号とメールアドレスを交換した。
おれはもやもやした気もちのまま、部屋にひとりとり残された。

どうでもいいけど彼女が去ったあと部屋は、甘い香りがすべての繊維に、深く染みて定着していた。