黒板に白い文字が踊る。相変わらず岩井先生の字は汚い。一生懸命なところは好きだけれど、このミミズが地面にのたくったような字は一生好きになれないだろう。
「ねえ芽衣ってば、聞いてるの?」
「え?ああ、なに?」
「もー、人の話はちゃんと聞きなさーい」
隣の席の梨世が頬を膨らませて言った。不自然に長い黒々としたまつげで、顔に影ができている。どうやらまた彼氏の自慢話をしていたらしい。正直なところ至極どうでもいい話なのだけれど、嫌と言えないのが私の悪い癖だった。
「それで、たっくんったらね…」
梨世の彼氏はまた代わったようだ。この前はひろみんで、さらにその前はゆーちん、だったような気がする。相変わらずお盛んなことだ。
「だから芽衣、聞いて!」
「こら、石津!授業中だぞ!」
岩井先生が怒鳴る。梨世はへーい、と気のない返事をして、そっぽ向いてしまった。
仕方ない。今日の放課後、マックにでも付き合ってあげようか。