忘れられない人

「女の子は大変だな。そんな高い靴はいてさ。オレは絶対無理。ほんと、えらいと思うよ。」

そして、私の後ろに下がると、

「オレの前歩いて。じゃないと、絶対はぐれるから。」

この時間の池袋は、人が多くごった返している。

それでなくてもさっきから私は、

凌と話ながら歩いているため、対向者にぶつかってばかりいた。

「え、前?いいよ、隣りで歩いてよー。」

凌の前を一人で歩くのは、あまりにも寂しすぎる。

「じゃ、ここ持ってて。」

そして、Tシャツの裾を私に掴ませると、歩き出した。

よく、飲んだ帰り道とかで。

合コンで一緒になった男の子とかに手をつながれて、イヤな気持ちがしたことが多いけれど。

こうやって洋服の裾を掴まされたのははじめてだ。

嬉しいやら恥ずかしいやらで、私は顔があげられなかった。