来栖恭太郎は満月に嗤う

通路状になった煉瓦の石畳を駆け、息を切らして逃げるリルチェッタ。

対するライガンは、花壇の中だろうと庭園内の噴水の中だろうとお構い無しに追跡してくる。

よもやこの非常時に、リルチェッタは花を踏み荒らす訳にはいかない、などと考えているのだろうか。

よく言えば心優しい、悪く言えば己の命が危ういというのにお人好しな思考だった。

そんな事をしているから。

「いつっ!」

飛びかかってきたライガンの牙が、リルチェッタの右肩をかすめる。

まさしく刃物同様のライガンの牙は、たやすくリルチェッタのエプロンドレスの袖を引き千切った。

同時に肌も傷つけられたのか、千切れた袖口から血が流れる。

「…っっ…」

脅えた目で、彼女が振り返る。

ライガンは、僅かに口元についた彼女の血を舌なめずりで味わいながら、尚もヒタヒタと距離を詰めていた。