来栖恭太郎は満月に嗤う

まぁいい。

別にこの女に湖を見せたかった訳ではなく、俺自身がここを訪れたかっただけだ。

俺は手綱を引き、馬を転進させる。

と…「!」

愛馬が一瞬躊躇した。

「どうした。引き返さんか」

何とか手綱で操ろうとするものの、愛馬は脅えたようにその場を動こうとせず、小さく嘶く。

「…来栖様」

あろう事か、気の強いリルチェッタまでもが声を震わせて俺を呼ぶ。

その視線の先。

「む?」

木陰に、何かが潜んでいた。

赤く眼を輝かせて、こちらを凝視する黒い影。

ソイツはゆっくりと歩を進め、我々の前に姿を現す…。