来栖恭太郎は満月に嗤う

屋敷の前を出発し、駆け足程度の速度で庭を抜ける。

煉瓦と鉄柵で出来た屋敷の門を潜った所で。

「はぁっ!」

俺は手にした乗馬用の鞭を振るう!

途端に愛馬は速度を上げ、鬱蒼とした森の中を走り抜けた。

木々の隙間を縫い、倒木を飛び越え、小川を飛沫を上げながら渡る。

その間も馬の脚は緩めない。

ずっと全速力。

「……!」

その速さに恐れをなしたのか、リルチェッタが俺のスーツの襟を握り締める。

サヴィルロウ名門テーラーのオーダーメイドに皺でもつけられてはかなわん。

「おいリルチェッタ」

馬を操りながら、俺は彼女の顔を見下ろした。

「どういう心変わりだ?両親の仇の胸に抱きつくとは」

「くっ…!」

悔しげに歯噛みしながら、リルチェッタが俺をきつく睨んだ。

「少し速度に驚いただけです…心変わりなど…していません!」

そう言って、彼女は気丈に俺から僅かに身を離した。