来栖恭太郎は満月に嗤う

「わかっていないな、アリカ」

俺は這い蹲る悪魔の娘を睥睨する。

「距離をとろうが、空中に逃げようが無駄なのだ。今この時間が夜である限り、闇が周囲を包んでいる限り、全ては俺の間合いなのだ。どこまで逃げようと、どこに隠れようと、お前は俺の手の中で踊っているに過ぎない」

「く…くそぉぉおぉおぉっ!」

貴族の出とは思えない汚い言葉で、アリカが咆哮する。

そして何を思ったのか、彼女は背中の翼でこの屋敷から遠ざかり始めた。

「この世界が全て夜な訳じゃない!地球は回っているのよ!半分が太陽に照らされず夜になっているならば、もう半分は太陽に面している筈!」

つまり地球を半周すれば、俺の間合いたる夜から逃げ出せるという事か。

成程。

アリカはアリカなりに考えているらしい。

超高速で夜の闇を飛翔するアリカ。

俺はそれを追う事もせず、ただ黙って見送っていた。