来栖恭太郎は満月に嗤う

呼吸を乱すアリカ。

対する俺は元の姿へと戻り、スーツの埃を払う余裕さえ見せる。

「悪魔の名門貴族も少々格式が落ちたか?お前程度のはねっかえりが持て囃されるようでは、品格が問われるというもの」

「卑しい吸血鬼の分際で、それ以上私を愚弄すると許さない!」

魔槍は通用しないと分かったのか、アリカは早々に槍を元の世界へと戻した。

正確には、魔槍が通用しないのではない。

あの魔槍は、この俺ですら目を見張るほどの業物だ。

恐らくあの魔槍の真の所有者が振るえば、俺とてもう少し苦戦するに違いない。

通用しないのは魔槍ではなく、それを操ったアリカの腕前に過ぎない。

しかしそんな事はプライドばかり高い彼女が認めよう筈もなく。

「得物がクズだから、この私がお前如き蝙蝠の親玉に苦戦なんかするのよ!『これ』なら吸血鬼なんかにこのアリカ様が後れを取る筈がない!」

アリカは何もない空間に突然ポッカリと口を開いた穴に腕を突っ込む。

それは『次元の歪み』。

彼女の比類なき魔力によって空間に亀裂を作り出し、そこから別の世界へと干渉してこちらの世界へと召喚する。

アリカはたやすげに行使しているように見えるが、本来ならば詠唱も魔方陣も無しに行う事など不可能な、とてつもなく高度な術式だった。