来栖恭太郎は満月に嗤う

槍を握る手に力を込め、アリカが静かに言葉を紡ぐ。

その声は先程までの娘らしい金切り声とは違い、低くドスの効いたものだった。

「ここまで愚弄されたのは初めてだわ…どんな人外も祓魔師も、天使でさえも私の前に立てば恐れおののき、如何にして機嫌を損ねないようにするか、その事ばかりに知恵を巡らせるというのに」

生憎と俺は、アリカのご機嫌取りなどに興味はない。

それよりも、彼女が握り締めている槍の方に目を引かれていた。

穂先の刃の鈍い輝き、柄に施された装飾は何故か不気味でさえあり、黒を基調としたその槍の色合いは、何か不吉なものを感じさせる。

損傷も刃の曇りもない、よく手入れの施された品ではあったものの、その槍には幾多の人の血を啜った生々しさが残っていた。

相当な業物でありながら、美術品の如き鮮烈な印象は与えない。

言うなれば『魔槍』。

真祖たる俺にさえ禍々しさを感じさせる、まるで呪いや怨念が込められているかのような槍であった。