「じゃ、わたし、行ってきますね」


ひとしきり話し終えた大家さんは、満足そうに頷き、いってらっしゃいと手を振った。

花香がそう言うと、大家さんは決まってアパートの中に帰って行く。


そしてその瞬間。

花香はいつも、桜の木と二人きりになったような感覚を抱く。

何故か桜の木も、こちらをみてくれている気がするから、


「ねえ、いつもそうやって、わたしを見守ってくれてるよね」


なんて話しかけてしまう。


…でも、今日は何かが違う。

花香には、桜の木がそわそわしているように見えた。


「どうしたの」


なんて言ったって、応えてくれるはずがないけれど。

花香は少し、胸騒ぎがしていた。





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