「みんな待ってるよ?」


杏梨は笑いながらせかす。


杏梨が先に居間へ行ってしまうと雪哉の手に柔らかい感触だけが残った。




「遅くなりました」


その言葉は父親にではなくママに向けられた言葉だった。



「いいのよ 今日はお店のある日だもの 急に呼んでごめんなさいね?」


経営者の雪哉はいつも多忙だ。



「雪哉の店は常連さんや芸能人でも予約するのが大変だって聞いているわ」


ゆずるが苦笑いしながら言う。



「そんなことないさ 予約は簡単に出来る」


雪哉が杏梨の隣の席に着くとコップにビールが注がれた。



「今日は泊まっていけるんだろう?」


父親に言われて雪哉は頷いた。