Love Step

「杏梨」



トロピカルジュースを口にしていた杏梨は急に名前を呼ばれて噴出しそうになった。



急いでハンカチを口元へ持っていく。



「な、なあに?」



「美咲のことは過去だよ 今はなんとも思っていない」



切り分けたお肉を杏梨の皿に取り分けると口を開いた。



「わ、わかってるよ?」



「……それならいいんだ」



笑みを見せて再び食べ始める。


有名女優が立ち寄ったテーブルと言う事で、周りに座っている人から注目されているのがわかって食べづらい。



ゆきちゃんが有名なカリスマ美容師だって言う事も分かってしまっているのかも。



フォークを置いた右手は左手の指輪に触れる。



衝動的に外そうと思ったのだ。



あんなに美しい人が彼女だった。


ゆきちゃんにはお似合いの女(ひと)。


小娘の自分が恥ずかしい。




「杏梨!やめるんだ!」



雪哉の声に驚いたが、指輪を薬指から抜こうとした。



「杏梨!」



雪哉が立ち上がって杏梨の元へ移動してきた。



「何をしているんだ?止めろと言っているのがわからないのか?」



抜いた指輪を奪うと左手の薬指にはめようする。



「ゆきちゃん……、やっぱりわたし……自信ないっ!」



そう言うと雪哉は眉根を寄せて怒りの表情を見せた。



そんな顔は初めて見る。



「おいで」



左手をぎゅっと握って雪哉が歩き出す。



「ど、どこへ行くのっ!?」



周りから注目されている事も雪哉は気にならないらしい。



杏梨を引っ張るようにしてどんどん賑やかな団体へと近づいていく。



「ゆきちゃんっ!?」