Love Step

「やだ、遠慮なんてしないで?雪哉……さんの知っているスタッフもいるのよ?そうそうプロデューサーの東さんもいるわ 顔を出さなかったらあとで小言を言われるわよ ご一緒のお嬢さんもどうぞ?」



目ざとい美咲はちえりが気づいた時よりも早く杏梨の指輪に気づいていた。



「……ゆきちゃんだけ行ってきて?」



杏梨は雪哉の立場を考えて言った。



「いや、行かないよ まだ食事もしていないだろう? 浅川さん、悪いけれど行けない 東さんには後で電話すると伝えてくれないか?」



雪哉の断固とした言い方に美咲は引き下がるしかなかった。



「わかったわ 伝えておくわ でも邪魔されたくなかったら早くここから消えた方がいいわよ?東さんが知ったら呼びに来るでしょうし」



プロディーサーの東は、カリスマ美容師としての雪哉を発掘した人。



店が有名になったのも東が雪哉を見つけTVで取り上げたからだ。



「またね 雪哉」



雪哉をさん付けせずに言った美咲はちえりを連れて自分たちのテーブルへと戻って行った。



「邪魔が入って悪かったね?」



元の席に着いた雪哉は杏梨に謝る。



「ううん、行ってきていいんだよ?」



「いいんだ」



そこへ食事が運ばれてきた。



おいしそうな料理がテーブルいっぱいに並べられても杏梨の食欲は嘘のように無くなっていた。



あの人と会うまでは牛一頭だって食べられそうな気分だったのに。



さっきまで楽しかった気持ちが今では沈んでしまっていた。



雪哉の元カノにばったり会って気まずかったとフォークで伊勢海老のサラダをつつきながら思う。



上目遣いにゆきちゃんを見ると、アグー豚のステーキを上品な仕草で切り分けている。



あの人と会っても動揺していないみたい。


わたしはありえないくらい動揺しているって言うのにっ。



少し乱暴にフォークを置いてグラスに手を伸ばした。