「杏梨……」


雪哉はハッとなった。


責めるような言い方をしてしまい後悔した。


目覚まし時計をかけてくれ、朝食も用意しておいてくれた。


何よりも自分の事を気遣って杏梨は学校へ行ったのだ。



雨の日に送ると言ったのは俺じゃないか!



杏梨は言い切ってしまうと身体が震えた。



涙も出てきてそれを見られたくない杏梨は足が痛むのもかまわずに自分の部屋へ走った。


「杏梨!待つんだ!」


杏梨を追って部屋へ行く。



雪哉が部屋に入ると杏梨はベッドにうつ伏せになっていた。



声を押し殺して泣く杏梨に雪哉は近づいた。



「杏梨、ごめんな 俺が悪かった」


ベッドの端に腰をかけ、杏梨の柔らかい髪にそっと触れる。


その途端、杏梨の身体が跳ねる。



「杏梨にもしもの事があったらと思うと生きた心地がしなかったんだ 分かってくれるね?」


ゆきちゃんの優しい声を無視できるわけなかった。



「杏梨、俺を許してくれるかい?雨の日は俺が連れて行く約束だったのに」


後悔している声に杏梨はゆっくり身体を起こした。


身体を起こすにも酷い筋肉痛みたいに痛む。


「し、心配かけてごめんなさい……」



謝る杏梨が小さい子供のように思えた。


強く抱きしめてやりたい思いと雪哉は戦った。



「もう昼だな 何か作るからリビングにおいで」


雪哉は杏梨の為にチャーハンを作っていた。


キッチンからソファーに座っている杏梨を見ると、身体が痛むようで顔をしかめている。



可哀想に……とにかくこれぐらいで済んだのは運が良かった。


水溜りを跳ねたのが峻くんだった事には驚いたが。


杏梨にもう原付バイクは乗って欲しくない。


雪哉はどうするべきかを考えながらチャーハンを炒めていた。