Love Step

それから2時間ほどして、目的の旅館に到着した。



この近辺の温泉旅館としては老舗の高級旅館。



杏梨は車から降りるとその佇まいにあっけに取られポカンと口を開ける。



温泉は小学校の時に母と行ったっきりだ。



あの時は温泉があるホテルで純和風の旅館を目の前にするのは初めて。



圧倒され気後れしてしまう。



ママったらなんでこういう旅館を予約するかな……。



後から車を降りた雪哉はトランクを開けて荷物を手にすると杏梨の横に来た。



「どうした?」



「えっ?すごく……えーっと……敷居が高そうな所だから……」



不安そうな瞳で雪哉を見上げる。



「敷居が高かったら旅館なんてやっていないよ」



雪哉がなんて事ないよと言った時、旅館の中から女将らしき女性と数人の仲居が出てきた。



「ようこそお越しくださいました」



女将は50歳代と思われるふくよかな女性でウグイス色の訪問着を着ている。


「さあさ、お部屋の方へご案内させていただきます」



優雅にお辞儀をすると女将自らフロントから鍵をもらい部屋へと案内する。



先頭に立つ女将の後から雪哉と杏梨は付いていくが、杏梨はキョロキョロと大きな瞳をめまぐるしく動かしていた。




中庭の渡り廊下を通り、純和風の建物へと案内される。




2人が泊まる部屋は旅館の離れのようだ。