店の自分専用の駐車スペースに愛車を停めた。



表通りのヘアサロンに向かって歩いていると男と女が建物の影に立っていた。



2人は抱き合っている事に夢中で丸見えなことに気づいていないようだ。



雪哉は特に気にせずに歩いた。




「琴美、今日は早く帰ってくるだろう?」



キスの後に男が甘えるように言ったのが聞こえた。



琴美と言う言葉を聞いて雪哉は顔をカップルの方へ向けた。



女性は背を向けていたが楽しそうな笑い声をたてている。



若い男性と目があった雪哉だがそのまま通り過ぎた。



あれは黒田さん?


あの人がこんな場所で?



雪哉の知る琴美はこんな場所で男といちゃつくようには思えなかった。



考えながら店へ入ると受付には誰もいなくすぐ裏で声が聞こえてきた。



「?」


受付の裏には休めるスペースがある。



そこを覗くとめぐみと女性スタッフ3人がいた。



4人は話に夢中で雪哉に気づかない。



「めぐみさんっ!もうあの人とは一緒にいられません!」



あの人って誰だ?



「たった1人のネイリストだからって、なんでもあたしたちに頼むんです!」



ネイリスト……。



「そうなんです!それも頼むんじゃなくて命令形で」



1人のスタッフが言えば、増長するように後のスタッフも言う。



「仕事も怠慢だし」



「怠慢?」



黙って聞いていためぐみが口を開いた。



「昨日も午後に予約のお客様、2人も入っていたのに早退したんですよ?」



「お客様、とてもお怒りになって」


お客様をなだめるのは大変だった。



「そうだったの?」



なぜ、杏梨ちゃんと出かけたのかしら……?