その時、インターホンが鳴った。


峻は急いで玄関に向かった。


ドアを開けると雪哉が立っていた。


「何もなかっただろうね?」


「あったと言ったら?」


雪哉を入れるために身体をずらしながら言っていた。


次の瞬間、峻は胸倉をがっしりと掴まれた。


「殺すと言っただろう?」


何秒か睨み合いが続く。



「きゃーっ!ゆきちゃん!離してっ!」


彩といる事に耐えられなくなった杏梨はリビングを出た瞬間、叫び声を上げた。


雪哉が峻の胸倉を掴んでいる所を見て驚いたのだ。


杏梨は玄関に飛び降りると、背後から雪哉の身体に抱き付いた。


「離してよ!峻くんは悪くないのっ!」


杏梨の必死の頼みに雪哉は峻を放した。


「心配させないでくれ」


杏梨に向き直ると両肩を掴み言った。



「ごめんなさい……」


大きな瞳がみるみるうちに潤み始める。



「あぁ……杏梨……」


雪哉は頬に指を滑らせ、ぎゅっと痛いくらいに杏梨を抱きしめた。



それを見ていた峻は顔を背けた。



「ラブシーンならここじゃない所でやってよ!」


彩だった。



「彩……君は……」


ゆっくり杏梨を離すと、雪哉の視線が疑問を投げかけている。



「そうよ!仮病なんだから辛気臭い病院にいる必要がなくなったってわけ」



「姉貴!声が大きい!誰かに聞かれたら……」



「ほっといて!早く帰ってよ!これ以上、惨めにさせないで!」



彩は言うと2階へ上がる階段へと消えて行った。