* * * * *



ここに一人、悩める男がいた。


峻だ。


モデル事務所の後輩、梨沙とあれ以来会っていない。


あの事があった翌日に事務所へ行き、彼女の携帯電話のメアド、番号は調べ済みなのだが。


梨沙を考えれば、原因を作った杏梨を思い出してしまう。


峻は重いため息を吐いてからベッドに寝そべった。


読みかけの推理小説を手にした時、机の上の携帯電話が鳴った。


誰だよ……こんな遅くに。


すでに真夜中の12時を回っている。


着信の名前を見て再びため息が出る。


「もしもし?姉貴?」


電話を耳にあてた途端に大音量の音楽が耳に響く。


うるせぇ……。


「姉貴?なんだよ こんな時間に」


『峻くぅ~ん』


ろれつの回らないしゃべり方。


「もしかして酔っ払ってる?」


『そうなのぉ~ なんだかぁ~酔っちゃって……』


最後の方の言葉は尻つぼみで小さくなっていく。



もともとお酒に強くない彩は酔わないように気をつけている。


こんな彩は珍しい。



何かあったのか?



「どこで飲んでるの?」


『えー……っと……』


酔っ払い相手の返事に苛立ちを抑えて待っていると、違う女性の声が聞こえてきた。


『もしもし、峻?真緒だけど』


「そこって真緒さんの所?」