キスして……って自分から頼んだのに……だんだんと怖くなっていった。

大好きなゆきちゃんにならその先も絶対に大丈夫だって思ったのに……。

自分から求めたのに……。

ゆきちゃんの手がお腹に移動した時、言いようも無い恐怖心がこみ上げて来た。

わたし、ゆきちゃんに何を言っちゃったんだろう!?

何を言ったのかあの時、無我夢中で杏梨は覚えていなかった。

気がつくと、ゆきちゃんの腕の中にいて優しく背中を撫でられていた。

治ったと思ったのに……簡単にはあの出来事を忘れられない……。

気持ちではゆきちゃんの心も身体も……欲しかったのに……。

身体が……拒絶した。


杏梨は自分が情けなくなって再び涙が溢れ出した。


「杏梨?」


眠ったか……。


酷く泣きじゃくるので3年前の時のように精神がおかしくならないか心配だったのだ。


泣き寝入りだが眠ってくれた事に感謝だ。


静かになった杏梨の身体をシーツに横たえる。


「……ごめんなさい……ゆきちゃん」


辛そうな声がした。


「! 起きていたのか」


杏梨が片手で支えてゆっくり起き上がった。


「俺が悪かったって言っただろう?」


泣きはらした真っ赤な目で見つめる杏梨が痛々しい。



いまだに引きずってしまうあの出来事……あの男を恨みたくなる。



「違うっ!違うのっ!わたしのせいなのっ!」


「興奮しないで 杏梨のせいじゃない」


俺のせいだ。

父さんの忠告を無視した俺のせいだ。



杏梨は両手を伸ばし雪哉の首に抱き付いた。


抱きつくと腕に伝わる濡れた感覚にビックリする。


「あ……」


雪哉の肩が自分の涙でびしょ濡れだった。


「ごめんなさい……」


「着替えてくるから大人しく待っているんだよ」


額に口づけを落とすと雪哉はベッドから出た。